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MRI | 所報 No.55 | 【震災復興提言】東北地方太平洋沖地震 発生時の帰宅困難状況を踏まえた、首都圏における今後の帰宅困難者対策のあり方

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要 約 目 次

提言論文 

東北地方太平洋沖地震

*1

発生時の帰宅困

難状況を踏まえた、首都圏における今後

の帰宅困難者対策のあり方

〜再現シミュレーションから見えてきた現状と課題〜

堤 一憲 2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震においては、首都圏(以下、 東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県の 1 都 3 県を「首都圏」と定義する)の交通機 関が一斉に停止したことで多くの帰宅困難者が発生し、駅ターミナルでの混乱や路 上の混雑などの状況が発生した。再現シミュレーションによると、首都圏での帰宅 困難者の状況は、当日帰宅を断念した人が約 260 万人、遠距離を徒歩・自転車で帰 宅した人が約 600 万人であり、大きな混乱はなかったものの、路上での混雑度の高 い区間も一部では見られた。東北地方太平洋沖地震では、首都圏中心部では被害は 少なかったが、首都直下地震などが発生した場合には混乱をきたす可能性がきわめ て高い。首都直下地震発生時の様相を東北地方太平洋沖地震発生当日と同じイメー ジで捉えることはとても危険であることが、シミュレーションによって導かれた。 帰宅困難者対策は、1 個人や 1 企業が実施するだけでは大きな効果はない。災害 時等における共通認識として、社会全体で実施する必要がある。このため、行政、 企業・学校、市民等があらかじめ統一的に決められた対応方針に関する役割分担を 共有し、確実に実行すること、また、行政や業界団体等が明確なアナウンスによっ て社会全体の合意を図っておくことが肝要である。基本的な考え方として、震度 6 強程度以上の揺れを伴う首都直下地震など、大都市圏に大きな被害を及ぼす災害が 発生し、公共交通機関の運行が一斉に停止した場合には「翌日帰宅」*2を基本とし て実施し、今回の東北地方太平洋沖地震のような震度 5 強程度の地震の場合には「時 差帰宅」*2を実施〔可能な人は無理をせず翌日帰宅を実施〕することが混乱防止に 有効である。また、本稿においては、シミュレーションにもとづく効果検証を踏ま え、翌日帰宅・時差帰宅の具体的な行動パターン(例)についても提示している。 なお、本提言は、中央防災会議「首都直下地震避難対策等専門調査会」の運営支 援の一環として実施した帰宅行動シミュレーションの知見や、帰宅困難者対策に関 する調査業務の豊富な経験をもとに実施するものである。 1.東北地方太平洋沖地震発生時における帰宅困難の発生状況・対応状況  1.1 帰宅困難者の発生状況  1.2 帰宅困難者の受け入れ状況 2.首都直下地震が発生した場合の主な課題 3.社会全体であらかじめ合意し、統一ルールに沿って実行すべき帰宅困難者対策(案) 4.今後の検討課題 *1 本論文では、今回の地震そのものを指す場合は「東北地方太平洋沖地震」、地震によって生じ た災害を指す場合は「東日本大震災」としています。 * 2 「翌日帰宅」とは、1 泊程度の後、翌日以降に順に帰宅を開始することをいう。一方、「時差帰 宅」とは、時間をあけて順に帰宅を開始あるいは待機することをいう。

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*1 In this paper, the earthquake itself is called the “2011 earthquake off the Pacific coast of Tohoku,” and the disaster caused by the earthquake is called the “aftermath of the 2011 Tohoku earthquake and tsunami.” * 2 “Next-day return home” means that people return home in turn from the next day after having stayed one night or so. “Staggered return home” means that people stagger their hours of returning home. Summary Contents

Suggestion Paper

Future Measures for People that have Difficulty in

Returning Home in the Capital Region Based on the

Situation of Difficulty in Returning Home after the

2011 Earthquake off the Pacific Coast of Tohoku

*1

− Actual Situation and Tasks Shown by Reproduction Simulation−

KazunoriTsutsumi

Afterthe2011earthquakeoffthePacificcoastofTohokuthatoccurredonMarch11, manypeoplehaddifficultyinreturninghomebecausethepublictransportservicesstopped completelyinthecapitalregion(definedasTokyo,Chiba,Saitama,andKanagawa),which caused chaos in the station terminals and congestion on the streets. According to the reproductionsimulation,about2.6millionpeoplegaveuponreturninghomeonthatday,and about6millionpeoplereturnedhomeoveralongdistanceonfootorbybicycle.Majorchaos didnotoccur,butthedegreeofcongestionwashighonsomestreets.Inthe2011earthquake offthePacificcoastofTohoku,thedamagewassmallinthecenterofthecapitalregion. However,ifamajorearthquakeoccursinthecapital,thereisahighpossibilitythatchaos willensue.Thesimulationshowsusthatitisverydangeroustoviewtheaspectsofthe assumedmajorearthquakeinthecapitalinthesamewayasthatofthe2011earthquakeoff thePacificcoastofTohoku. Measuresforpeoplewithdifficultyinreturninghomewillhavenogreateffectiftheyare implementedbyanindividualoracompanyalone.Theyshouldbeimplementedbyallof societyasasharedawarenessofdisasters,etc.Therefore,itiscrucialthatthegovernment, companies,schools,citizens,etc.sharetheirrolesconcerningthepoliciesforactiondecided according to the common rules beforehand and ensure they are implemented, and that thegovernment,industrygroups,etc.makeeffortstoreachagreementwithallofsociety through clear announcements. As a basic idea, the effective measures for prevention of chaosareasfollows:implementationof“next-dayreturnhome”*2ifthepublictransport servicesstopcompletelyduetoadisastersuchasamajorearthquakeinthecapitalwith anintensityofupper6,etc.thatwouldcausemajordamagetothelargemetropolitanarea; andimplementationof“staggeredreturnhome”*2(next-dayreturnhomemaybeacceptable forapplicablepeople)inthecaseofanearthquakewithanintensityofupper5likethe 2011earthquakeoffthePacificcoastofTohoku.Thispaperalsoindicatesthespecificaction patterns (examples) of next-day return home and staggered return home based on the verificationofeffectsshownbythesimulation. Thesuggestioninthispaperwillbeimplementedbasedonthefindingsofthesimulationof thereturnhomeactionthatwasimplementedaspartoftheoperationsupportfortheCentral DisasterPreventionCouncil’s“ExpertExaminationCommitteeonMeasuresforEvacuation fromMajorEarthquakeintheCapital,”andextensiveexperienceoftheresearchonmeasures forpeoplethathavedifficultyinreturninghome. 1.Situationofpeoplewithdifficultyinreturninghomeafterthe2011earthquakeoffthe PacificcoastofTohokuandactionforthesituation  1.1 Situationofpeoplewithdifficultyinreturninghome  1.2 Situationofacceptanceofpeoplewithdifficultyinreturninghome 2.Majortasksintheeventofamajorearthquakeinthecapital

3.Plan of measures for people with difficulty inreturninghomethatshould beagreed beforehandwithallofsocietyandimplementedaccordingtothecommonrules

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1. 東北地方太平洋沖地震発生時における帰宅困難の

発生状況・対応状況

東北地方太平洋沖地震発生時には、首都圏の交通機関が一斉に停止したことで多くの帰宅 困難者が発生した。所属する企業等によっては、翌朝まで従業員等を待機させる措置がとら れたり、また、都内の公共施設や民間施設では、10 万人もの帰宅困難者の受け入れが実施さ れたりもした。こうした帰宅困難者対策が実施された一方で、駅ターミナル等での混乱*3 路上の混雑などの状況も発生した。

1.1  帰宅困難者の発生状況

(1)アンケート調査に基づく帰宅状況の推定

災害と情報研究会(東京大学廣井助教、東洋大学関谷准教授)及び株式会社サーベイリ サーチセンターの共同研究によるアンケート調査*4によれば、地震当日に帰宅できなかっ た人(しなかった人を含む)は 1 都 3 県平均で約 2 割であった(表 1)。これらの人のうち、 「自宅に帰ろうとしたが途中であきらめた」人はわずか 1 割(9 割はそもそも帰ろうとして いない)であった[1]。 表 1.東北地方太平洋沖地震の発生当日に帰宅できなかった人の割合[1] 地震発生当日に帰宅できなかった人の割合 (当日帰宅困難率) 地震発生時の 所在地別 東京都 32.2% 千葉県 10.4% 埼玉県 6.5% 神奈川県 12.2% 通勤・通学 時間別 30 分未満 3.5% 30 分以上 1 時間未満 11.7% 1 時間以上 1 時間 30 分未満 37.6% 1 時間 30 分以上 2 時間未満 51.1% 2 時間以上 61.0% 作成:[1]をもとに三菱総合研究所 上記アンケート調査による通勤・通学時間別の当日帰宅困難率(表 1)のデータを用いて、 パーソントリップ調査の OD データと組み合わせると、1 都 3 県で約 260 万人〔東京都約 * 3 警察庁によると、帰宅困難者などによる駅の滞留状況(発災当日午後 9 時時点)は、新宿駅で計約 9,000人、 池袋駅約 3,000 人、東京駅約 1,000 人、横浜駅約 5,000 人、千葉駅約 1,000 人、大宮駅約 2,000 人な どであった。また、国土交通省によると、羽田空港で約 1 万 4,600 人、成田空港で 8,500 人が、帰宅等 が不可能な状態となった(発災翌日午前 2 時時点)。 * 4 調査対象者は、首都圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)に居住する 20 歳以上の男女個人のう ち地震発生時に首都圏にいた人である。調査期間は 2011 年 3 月 25 日〜 28 日で、調査方法はインターネッ ト調査(モニターに対するクローズド調査)を用いた。有効回答は 2,026 サンプル。

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162 万人(都心 4 区約 74 万人、他区部約 69 万人、多摩 19 万人)、千葉県約 30 万人、埼玉 県約 28 万人、神奈川県約 40 万人〕が発災当日の帰宅断念者と推定される。なお、中央防災 会議の被害想定によると、首都直下地震発生時の帰宅困難者数は約 650 万人*5とされてい た。東北地方太平洋沖地震発生時の帰宅断念者約 260 万人が、先の被害想定の数字と比べて 小さい数字にとどまった状況を鑑みると、東北地方太平洋沖地震発生時は、帰宅距離 20km を超える遠くからの外出者でも帰宅しやすく、混乱も比較的少なかった状況を表していると 考えることができる。

(2) 再現シミュレーションに基づく帰宅状況の推定

今回、前述のアンケート調査結果[1]にもとづく帰宅行動の傾向(どこからどこへ、ど のような人が、どのような手段で移動したか等)をもとに、東北地方太平洋沖地震発生当日 の帰宅行動の再現シミュレーションを実施した。シミュレーションは、会社員、学生、買い 物客及び防災業務従事者の地震発生当日の行動(帰宅の開始や休憩の判断、混雑度に応じた 通行速度や迂回行動など)をモデル化し、徒歩・自転車で歩道を通行する様子を再現したも のである。なお、東京メトロの銀座線・半蔵門線が、当日 20 時 40 分に運行を再開した。運 行再開後は電車を利用した帰宅行動が開始されることから、ここでのシミュレーションの計 算時間の範囲は、地震発生から地下鉄の一部が運行再開される前の 20 時(発災から約 5 時 間後)までとした。 結果、以下のような点が明らかになった。 【再現シミュレーションからわかった状況】 ・鉄道が運行を再開しはじめる前の 20 時までの時点で徒歩・自転車で帰宅を開始した人(た だし、自宅のある居住ゾーン*6の外に出ていた遠距離の帰宅者)は、約 488 万人と推定さ れる(図 1)。また、これらの帰宅者は、結果的に時差をつけて帰宅を開始している(図 2)。 ・20 時 40 分以降の一部電車の運行再開後で見ると、20 時まで帰宅を開始せずに待機した 人 461 万人(図 1)の内訳は、「発災当日のうちに帰宅できなかった(しなかった)人」約 260 万人、「電車で帰宅した人」約 90 万人、「徒歩・自転車で帰宅した人」約 110 万と推定 される。結果、当日の徒歩・自転車による遠距離の帰宅者は合計約 600 万人と推定される。  なお、首都直下地震発生時に一斉に帰宅を開始した場合を想定すると、当日の遠距離の 徒歩・自転車帰宅者(以下、徒歩・自転車帰宅を「徒歩帰宅」という)は約 1,100 万人と 想定され、これに比べると東北地方太平洋沖地震発生時の徒歩帰宅者数は半数程度と少な かったことになる(なお、以降、「遠距離徒歩帰宅者」とは、居住ゾーン外から徒歩・自 転車で帰宅する者を指す)。 * 5 「650 万人」という被害想定は、帰宅距離 10km 以内の人は全員が帰宅可能、20km 以上の人は全員が 帰宅困難、その間は 1km 長くなるごとに帰宅可能率が 10% ずつ低減するものとして計算されたものであ る。 * 6 「ゾーン」とはパーソントリップ調査における計画基本ゾーンのことであり、ここでの「居住ゾーン」とは 自宅が属する計画基本ゾーンのことを指す。

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・東北地方太平洋沖地震発生時の帰宅困難者の状況は、図 3 のような概念図で整理できる。 「(広義の)帰宅困難者=帰宅断念者+遠距離徒歩帰宅者」と定義した場合、発災当日の (広義の)帰宅困難者は、「帰宅断念者[約 260 万人]+遠距離徒歩帰宅者[約 600 万人] =約 860 万人」であったことになる。ただし、この遠距離徒歩帰宅者の「遠距離」とは、 居住ゾーンをまたぐ程度以上の遠距離であり、帰宅困難という言葉の概念からすれば、少 し距離が短いものも含まれていることに留意する必要がある。ここで、(広義の)帰宅困 難者の概念を取り上げるのは、「帰宅断念者」と「遠距離徒歩帰宅者」では求められる対 策が違う、との観点からである。「帰宅断念者」に対しては会社等での待機や帰宅困難者 一時滞在施設の開放といった対策が必要となる一方で、「遠距離徒歩帰宅者」に対しては 災害時帰宅支援ステーションなどでの帰宅支援が必要となる可能性がある。 ・時刻別の路上歩行者数(図 4)を見ると、発災 4 時間後の 19 時がピークで、首都圏全体で 約 300 万人が歩いていたことになる。都県別に見ると、東京都区部約 140 万人、東京都多 摩約 32 万人、神奈川県 55 万人、埼玉県約 35 万人、千葉県約 30 万人となっている。 ・時刻別の帰宅途中の休憩者数(図 5)を見ると、発災 5 時間後の 20 時の時点では約 4 万人 (東京都区部で約 2 万 4 千人)と意外と少ないことがわかる。比較的スムーズに歩くこと ができたことで休憩をそれほど取らなくても帰宅できたもの、と考えられる。 ・徒歩帰宅者の帰宅途上の状況を見ると、概ね通常の平均歩行速度である時速 4km 程度で 通行できている。発災 4 〜 5 時間後においては、国道 246 号の用賀〜二子玉川や二子橋、 目白通り(九段下〜飯田橋)などで、混雑のために歩行速度が時速 3km 程度まで低下し ている。 ・混雑度を見ると、発災から約 3 時間後の 18 時頃から 0.5 〜 1 人 /m2程度〔=渋滞しない 程度にまだ普通に歩ける状態[2]〕の混雑度の区間が都心部から周辺部へ広がりはじめ、 一部では 2 人 /m2程度〔=普通の歩行ができる上限[2]〕になっている区間もある(図 6)。東北地方太平洋沖地震発生時には、多くの昼間人口がいる東京都区部などの地域では 大きな被害は少なく、「数時間程度待てば、路線によっては交通機関が復旧するのではな いか」と予想した人が多かったと考えられる。また、会社等によっては待機指示を出した り、被害があまりなく営業を継続したりしたこともあり、通常の終業時刻である 17 時過 ぎまで帰宅を開始しなかった人も多かったと考えられる。こうしたことから、一斉に帰宅 を開始した人はそれほど多くなく、むやみな移動開始による混乱の発生度合いは小さかっ たと考えられる。

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図 1.帰宅手段別の帰宅状況(帰宅途中を含む)−鉄道が運行再開しはじめる前の 20 時までの時点(上図) 図 2.鉄道が運行再開しはじめる前の 20 時までに、徒歩・自転車で帰宅を開始した人の時間帯別割合(下図) 鉄道が運行再開しはじめる前の20 時までに、徒歩・自転車で帰宅を開始した人の時間帯別割合 0 20 40 60 80 100 120 140 (万人) 15時台 16時台 17時台 18時台 19時台 20時までに徒歩・自転車で 帰宅を開始した人数 16% 22% 26% 26% 11% 帰宅手段別の帰宅状況(帰宅途中を含む)−鉄道が運行再開しはじめる前の20時までの時点 居住ゾーン 外への発災時の 外出者 1,397万人 徒歩・自転車帰宅 (488万人、35%) タクシー・バス等で 帰宅(209万人、15%) 20時まで待機(以降、徒歩や 運行再開後に電車で帰宅) (461万人、33%)※ 自動車で帰宅 主 に 幹 線 道 路 を 中 心 に遠 距 離を 徒歩・自転車で帰宅 ※20時以降の電車の運行再開を考慮すると、 2 0 時まで帰宅を開 始せずに待機した人 461万人の内訳は、「発災当日のうちに帰宅 できなかった(しなかった)人」約260万人、 「電車で帰宅した人」約90万人、「徒歩・自転 車で帰宅した人」約110 万人と推定される。 作成:三菱総合研究所 図 3.東北地方太平洋沖地震発生時の首都圏での帰宅困難者の状況 自宅外への外出者2,100万人 遠距離の外出者 (=居住ゾーン外への外出者)1,397万人 (発災当日) (発災当日) 遠距離 徒歩帰宅者 600万人 帰宅 断念者 260万人 (広義の)帰宅困難者 数時間幅での時差帰宅 災害時帰宅支援ステーション等 での帰宅支援 会社等での待機 一時滞在場所の 開放 作成:三菱総合研究所

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図4.路上歩行者数の時刻別推定結果(東北地方太平洋沖地震発生当日) 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 (千人) 各時間断面での歩行者数 約1時間後 (16時) 約2時間後(17時) 約3時間後(18時) 発災後経過時間 約4時間後 (19時) 約5時間後(20時) 東京都区部 東京都多摩 千葉県 埼玉県 神奈川県 作成:三菱総合研究所 図5.徒歩帰宅途中の休憩者数の時刻別推定結果(東北地方太平洋沖地震発生当日) 0 5 10 15 20 25 徒歩帰宅途中の休憩者数 約1時間後 (16時) 約2時間後(17時) 約3時間後(18時) 発災後経過時間 約4時間後 (19時) 約5時間後(20時) 東京都区部 東京都多摩 千葉県 埼玉県 神奈川県 (千人) 作成:三菱総合研究所

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図 6.歩道混雑度のシミュレーション結果 その 1:東北地方太平洋沖地震発生当日 発災約 1 時間後(16 時) 発災約 2 時間後(17 時) 凡例 混雑時(人 /m2 6.00 以上 4.00 超 6.00 未満 1.50 超 4.00 以下 1.00 超 1.50 以下 0.50 超 1.00 以下 0.50 以下 凡例 混雑時(人 /m2 6.00 以上 4.00 超 6.00 未満 1.50 超 4.00 以下 1.00 超 1.50 以下 0.50 超 1.00 以下 0.50 以下

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図 6.歩道混雑度のシミュレーション結果(続き) その 2:東北地方太平洋沖地震発生当日 発災約 3 時間後(18 時) 発災約 4 時間後(19 時) 凡例 混雑時(人 /m2 6.00 以上 4.00 超 6.00 未満 1.50 超 4.00 以下 1.00 超 1.50 以下 0.50 超 1.00 以下 0.50 以下 凡例 混雑時(人 /m2 6.00 以上 4.00 超 6.00 未満 1.50 超 4.00 以下 1.00 超 1.50 以下 0.50 超 1.00 以下 0.50 以下

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図 6.歩道混雑度のシミュレーション結果(続き) 作成:三菱総合研究所

1.2 帰宅困難者の受け入れ状況

各都県は、発災後、公共施設をはじめとする帰宅困難者の一時受入が可能な施設を調整し て確保し、いち早くホームページ等で公表した。東京都によると、こうした帰宅困難者一時 滞在施設を利用した人は約 9 万 4 千人とされているが、東京都が把握していない施設での帰 宅困難者の受け入れも多かったと推察される。なお、再現シミュレーションでは、一時滞在 施設などで休憩した帰宅困難者数は、東京都で約 12 万人、首都圏全体で約 20 万人と推定さ れる。 また、東京都においては、都立学校をあらかじめ災害時帰宅支援ステーションとして位置 付けていた。都教育庁によれば、発災翌日の午前 1 時 30 分時点での帰宅困難者の受入状況 及び児童・生徒の保護状況は、帰宅困難者受入数 5,987 人、学校で保護している児童・生徒 数 8,440 人であった。 このほか、東京国際フォーラム、さいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ、パシフィコ 横浜などの民間施設、青山学院などの私立学校、霞が関の厚生労働省・中央合同庁舎 5 号館 講堂などの国の施設でも帰宅困難者の受け入れが行われた。それとともに、9 都県市が締結 している協定等にもとづき、災害時帰宅支援ステーションとしてのコンビニ・ガソリンスタ ンドで水道水やトイレの提供が行われた。 その 3:東北地方太平洋沖地震発生当日 発災約 5 時間後(20 時) 凡例 混雑時(人 /m2 6.00 以上 4.00 超 6.00 未満 1.50 超 4.00 以下 1.00 超 1.50 以下 0.50 超 1.00 以下 0.50 以下

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2.首都直下地震が発生した場合の主な課題

東北地方太平洋沖地震の場合と、近い将来の発生可能性が指摘されている首都直下地震が 実際に発生した場合との帰宅困難の状況の違い*7を考慮すると、首都直下地震発生時に想 定される課題としては、主に以下があげられる。 ①激しい路上混雑に伴う人的被害発生の可能性 ・今回の東北地方太平洋沖地震の際には、当日中に運行を再開した鉄道機関もあり、徒歩 帰宅をした人においても一部を除いて大きな混乱はなかったと考えられる。しかし、首 都直下地震(マグニチュード 7 クラス)が発生した場合には、もっと大きな混乱が予想 される。前述のアンケート結果[1]によれば、「今後、このような状況になったらどう するか」の問いに対して約 7 割の人が「自宅に帰ると思う」と回答しているが、今回の 東北地方太平洋沖地震の発生時の様相と同じようなイメージを抱くのはとても危険であ る。大規模地震時には停電で真っ暗な状況となる。信号が作動せず、特に交差点等で人 と車両の大混雑が発生し、建物損壊・落下物発生・延焼火災等の危険な状況となり、断 水等によってトイレが使えなくなる等の事態も発生すると予想される。また、中央防災 会議「首都直下地震避難対策等専門調査会」の検討の中で実施した帰宅行動シミュレー ション[3]によれば、首都直下地震発生時に一斉に帰宅を開始すると、満員電車状態 (6 人 /m2以上)の道路を 3 時間以上も歩かざるをえない人が 201 万人にも及ぶと試算 している。路上混雑度が 6 人 /m2を超えるような区間では、まさにラッシュ時の満員 電車状態となり、群集なだれが起きるほどの危険な状態[2]になり得る。 ・首都直下地震発生時に一斉に帰宅を開始した場合には、今回の東北地方太平洋沖地震発 生後に最も混雑していた時間帯と比べて、路上混雑度は東京都の都心 4 区平均で 2 〜 5 倍、千代田区で 3 〜 5 倍にも及ぶと推定される(図 7)。 ②緊急車両の通行支障のおそれ ・今回の東北地方太平洋沖地震の発生当日の実際の徒歩帰宅者の動きをみると、車道を歩 いて帰る人も多く見られた。また、車道は自動車で大渋滞した。首都直下地震が発生し た場合には、交通規制がうまく機能しない場合も含めて、帰宅困難者が路上にあふれる と、発災直後の緊急車両の通行に大きな支障が発生するおそれがある。 * 7 両者の違いとしては、例えば、東北地方太平洋沖地震発生時には、施設被害やライフライン施設被害の あった地域は限定的であったこと、翌日には公共交通機関が運行再開したこと等があげられる。

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図 7.路上混雑度の違い−東北地方太平洋沖地震再現ケースに対する首都直下地震     発生時の一斉帰宅ケース 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 千代田区 中央区 港区 新宿区 23区平均 都心4区平均 首都直下地震発生時に一斉に帰宅を開始した場合には、東 北地方太平洋沖地震発生後に最も混雑していた時間帯と比 べて、路上混雑度は東京都の都心4区平均で2∼5倍程度に 及ぶ(千代田区では3∼5倍)。 1時間後 2時間後 3時間後 4時間後 5時間後 地震発生後経過時間 混雑度の倍率 ※ ※混雑度の倍率 =(首都直下地震一斉帰宅ケース)÷(東北地方太平洋沖地震ケースの最大混雑度) 作成:三菱総合研究所

3. 社会全体であらかじめ合意し、統一ルールに沿って実行

すべき帰宅困難者対策(案)

東北地方太平洋沖地震発生時における帰宅困難状況や現状の課題等を踏まえると、今後、 特に強化すべき帰宅困難者対策の方向性は次のとおりである。

(1) 基本コンセプト

・「むやみに移動を開始しない」という基本原則に沿って確実な実行を! ・帰宅困難者問題は社会全体で対応せよ! 行政、企業・学校・大規模集客施設、地域、 市民の役割分担についての統一ルールをあらかじめ定め、社会全体で合意を図れ!

(2) 具体の対策(案)

①「翌日帰宅」「時差帰宅」の計画的実施 大規模災害が発生し、公共交通機関の運行が一斉に停止した場合、「むやみに移動を開始 しない」の基本原則のもと、できるだけ「翌日帰宅」あるいは「時差帰宅」*2を実施する ことが望ましいと考える。ただし、「従業員、児童・生徒等を施設内で待機させて帰宅させ

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ない」という方向性だけでは、被害レベルによる判断基準や状況による実施の可否等が異な るため、より具体的に計画しておく必要がある。 以下では、被害レベルに応じた対応(案)、翌日帰宅・時差帰宅に係る具体の行動パター ン(案)などについて説明する。これは、杓子定規に型にはめられるものではなく、臨機応 変に判断する必要があるが、徒歩帰宅者が、集中せずに安全に帰宅できるような拠り所とな る行動パターンは検討しておくべきと考える。   A. 「翌日帰宅」「時差帰宅」の実施方法(案) a)被害レベルに応じた対応(案) 【被害レベル 1】震度 5 強程度の地震の場合 今回の東北地方太平洋沖地震のような震度 5 強程度の地震の場合には、まず電車の運行が 再開されるまで待ち、再開後も数時間幅での時差帰宅を実施することを推奨する。なお、可 能な人は、無理をせず翌日帰宅を実施することが混乱防止に有効である。  また、安全な待機・宿泊スペースを確保することができない場合においては、あらかじめ 定められた帰宅困難者一時滞在施設等を利用しつつ、帰宅する場合にもできるだけ時差帰宅 は実施することが重要である。 【被害レベル 2】震度 6 強以上程度の地震の場合 首都直下地震などの震度 6 強以上程度の大規模地震が発生し、延焼火災等の危険を伴う場 合には、基本的には翌日帰宅の方が危険回避、混乱防止の点で望ましい選択である。 首都直下地震のケースで、もし帰宅者の 1/3 の人が発災翌日に分散して帰宅した場合、満 員電車状態の道路を 3 時間以上歩く人数は 201 万人から 94 万人へ約半分に減少、帰宅者の 1/2 が発災翌日に分散して帰宅した場合には 201 万人から 52 万人へ約 4 分の 3 に減少する と推定されており、翌日帰宅の効果は非常に大きいことがわかる[3]。今回の東北地方太平 洋沖地震の発生当日の状況は、自動車で帰宅した人、鉄道の運行再開を待って帰宅した人 がいた一方で、徒歩帰宅を余儀なくされた人も結果的には時差帰宅を実施した形となって いる。「むやみに移動を開始する」状況が回避されたために、大きな混乱の発生には至らな かった。 このため、企業等が「翌日帰宅」を実施する、つまり少なくとも翌日まで従業員等に待機 してもらうためには、災害用伝言ダイヤル 171、携帯電話の災害用伝言板サービスや携帯電 話のメールなどの「複数の安否確認手段の活用」による従業員等の家族との安否確認方法の 周知徹底を日ごろから促進するとともに、オフィス家具の固定などによる安全なスペースの 確保、食料・飲料水・毛布等の備蓄(最低 2 日分程度)などの従業員等の一時収容対策を促 進することが必要である。 b)翌日帰宅・時差帰宅に係る具体の行動パターン(案) すべての人が翌日帰宅を選択し、一斉に翌朝に帰宅を開始してしまうと、当然ながら混乱 が発生するため、実際には翌日帰宅と時差帰宅とのバランスを図ることが重要となる。 首都直下地震発生時に一斉に徒歩帰宅を開始すると、首都圏で発災当日に約 1,124 万人も が遠距離を徒歩帰宅することになる。今回の東北地方太平洋沖地震の場合は、①当日の遠距

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離徒歩帰宅者が首都圏で約 600 万人と推定されること、②数時間幅での時差帰宅が図らずも なされたこと、③その状況下では結果的に混雑はそれほど激しくなく、駅ターミナルなどの 一部区域・一部区間を除いて比較的円滑な歩行が可能であったことの 3 点から判断すると、 今回の東北地方太平洋沖地震と同程度の路上混雑度であれば、ある程度円滑な徒歩帰宅が期 待される。 そのためには、例えば、次のような行動パターンでの帰宅が必要となる。首都直下地震発 生時には、今回の東北地方太平洋沖地震では見られなかった建物倒壊、道路・橋梁被害、大 規模延焼火災などが発生することが想定されるが、その際の行動パターンは、延焼火災等の 規模で異なると考えられ、延焼火災の規模が大きければ遠距離の外出者の全員が翌日以降ま で待機する必要がある。 また、現実的に考えて、現状において安全な待機・宿泊スペースを確保することができな い場合は、それでも可能な範囲で時差帰宅を実施することが推奨されるが、翌日帰宅などの 対応がとれない可能性がある。この場合も考慮すると、やはり事業継続の観点からも根本的 に施設の耐震化を進めることが重要となる。 〔首都直下地震発生時に実施すべき行動パターン(例)〕 延焼火災・停電は帰宅行動に大きく影響するため、その規模に応じて以下 2 つのケースに 分けて検討した。 ア)延焼火災・停電の規模が小規模にとどまる場合 (発災当日の行動パターン) 「むやみに移動を開始しない」という基本原則に沿った対応がなされる。会社・学校等 の組織に属する人の 2 分の 1 が翌日帰宅を選択し、その残り 2 分の 1 の人及び買い物客 等組織に属さない人は、しばらく様子を確認した後に 6 時間程度の幅での時差帰宅を実 施(注*8)。 (発災翌日の行動パターン) 翌日まで待機した会社・学校等の組織に属する人が、朝明るくなった時点から 6 時間程 度の幅で時差帰宅を実施。 イ)延焼火災・停電が大規模になった場合 (発災当日の行動パターン) 自宅のある居住ゾーンの外に出ていた遠距離の外出者の全員が待機する。つまり、会社 員、学生といった組織に属する人はそれぞれ企業、学校で全員待機し、買い物客等組織 に属さない人は帰宅困難者一時滞在施設等で待機(この場合、買い物客等組織に属さな い人の待機のために、約 165 万人分の収容力の一時滞在施設が必要)(注*8)。 (発災翌日の行動パターン) 会社・学校等の組織に属する人の 2 分の 1 は発災翌々日の帰宅を選択。その残り 2 分の 1 の人及び買い物客等組織に属さない人は、延焼火災がある程度落ち着く段階までしば らく様子を確認した後に、6 時間程度の幅での時差帰宅を実施。 * 8 注:なお、外出先が自宅と同一区市町村内にあるような近距離外出の場合は、しばらく待機し様子を確 認してから帰宅。

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(発災翌々日の行動パターン) 翌々日まで待機した会社・学校等の組織に属する人が、朝明るくなった時点から 6 時間 程度の幅で時差帰宅を実施。 なお、上述の「6 時間程度の幅で時差帰宅」は、従業員等をいくつかのグループに分け、 段階的に 6 時間程度の時間をあけて帰宅を開始あるいは待機するものである。様々な方法が あり得るが、各企業等における実情に合わせて事前に計画を立てておけばよいと考える。例 えば、まずは企業等が帰宅方針あるいは待機の方針を意思決定する。次いで、自宅までの距 離(所要時間)に応じて分けられたグループのうち、より長距離(長時間)となるグループ から順に帰宅させるとともに、障がい者や妊婦などの要援護者については一旦待機して無理 のない帰宅(状況に応じて国・自治体が手配するバス・船舶等での移送)を検討することが 考えられる。 表 2.時差帰宅計画(例) グループ区分 帰宅開始時間 日常の通勤時間が 1.5 時間を超えるグループ 企業等の帰宅方針の決定後 1 時間後〜 2 時間後 日常の通勤時間が 1 時間以上のグループ (同上) 2 時間後〜 3 時間後 日常の通勤時間が 1 時間未満のグループ (同上) 3 時間後〜 4 時間後 日常の通勤時間が 30 分未満あるいは 徒歩・自転車通勤者及び要援護者のグループ (同上) 4 時間後〜 5 時間後 注:上表はあくまで時差帰宅計画の一例である。全体として帰宅者を分散させることがねらいであり、これに必ずしも準拠 する必要はない。企業等が実情を踏まえて時差帰宅の方針あるいは待機方針を意思決定し、従業員等に伝達して実行す ることが肝心である。 作成:三菱総合研究所 B. 翌日帰宅・時差帰宅の計画的行動パターンの実行による効果と課題 a)計画的行動パターンの実行による効果 上記の「延焼火災・停電が大規模になった場合」の行動パターン(図 8)で帰宅あるいは 待機が行われた場合をシミュレーションした結果が図 9 である。この行動パターンは、大規 模延焼火災から人命を守るとともに混乱を避けるため、「発災当日は遠距離の外出者は全員 待機」という対策をとり、かつ大規模停電に伴い昼間の帰宅を前提とした場合の行動を示し ている。この場合、路上混雑度は東北地方太平洋沖地震発生当日に近い状況となる。した がって、今後、こうした行動パターンを参考にしながら具体的な帰宅方針を検討し、社会全 体で合意し、計画化していく必要がある。 b)新たな課題 しかし、その一方で、待機している間に家族等との安否確認が取れるようになると、シ ミュレーション上、帰宅を開始するよりは待機を継続する方向に転じ、発災翌々日以降の帰 宅断念者が約 289 万人になると推定される。これは、一斉に帰宅を開始した場合の帰宅断念 者約 125 万人の約 2 倍以上も長期にとどまる人が増加することを意味する。帰宅困難者対策

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としてまず重視すべきは、路上混雑等に伴う危険回避・混乱回避の観点であると考えられ る。この視点に立って「むやみに移動を開始しない」施策を展開すれば、安全で円滑な徒歩 帰宅ができる。一方、無理して帰らずにとどまろうとする人が増えるため、安全な宿泊場所 や食料・飲料水・生活必需物資の確保と、バス・船舶輸送等の代替交通手段の早期確保も重 要となる。 図 8. 路上歩行者数の時刻別分布−首都直下地震発生時に延焼火災・停電が大規模化し、     計画的な帰宅分散が図られた場合 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 (千人) 1 8 時 間 後 1 9 時 間 後 2 0 時 間 後 2 1 時 間 後 2 2 時 間 後 2 3 時 間 後 2 4 時 間 後 2 5 時 間 後 2 6 時 間 後 2 7 時 間 後 2 8 時 間 後 2 9 時 間 後 3 0 時 間 後 3 1 時 間 後 3 2 時 間 後 3 3 時 間 後 3 4 時 間 後 3 5 時 間 後 3 6 時 間 後 3 7 時 間 後 3 8 時 間 後 3 9 時 間 後 4 0 時 間 後 4 1 時 間 後 4 2 時 間 後 4 3 時 間 後 4 4 時 間 後 4 5 時 間 後 4 6 時 間 後 4 7 時 間 後 4 8 時 間 後 4 9 時 間 後 5 0 時 間 後 5 1 時 間 後 5 2 時 間 後 5 3 時 間 後 5 4 時 間 後 東京都区部 東京都多摩 千葉県 埼玉県 神奈川県 朝6時 昼12時 (翌日) (翌々日) 夕18時 発災後経過時間 朝6時 昼12時 夕18時 翌日の帰宅開始から4 時間後(翌日10 時)をピークとして、 時間断面では首都圏全体で最大約330万人が歩行(東北地 方太平洋沖地震発生当日では、発災4時間後に約300 万人) 各時間断面 で の 歩行者数 作成:三菱総合研究所

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図9.路上混雑度の違い−東北地方太平洋沖地震再現ケースに対する首都直下地震発生時の 計画的帰宅分散ケース 千代田区 中央区 港区 新宿区 23区平均 都心4区平均 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 首都直下地震発生時に延焼火災・停電が大規模化し、その対策として計画的な帰宅 分散が図られた場合※1、東北地方太平洋沖地震発生後に最も混雑していた時間帯 の路上混雑度に近い状況となる。 後 間 時 5         後 間 時 4         後 間 時 3         後 間 時 2           後 間 時 1 帰宅開始後経過時間※3 混雑度 の 倍率 ※2 ※ 1「3 章− A −[首都直下地震発生時]−イ)延長火災・停電が大規模になった場合」の行動パターン(本稿 P.109 参照)にしたがった場合 ※ 2混雑時の倍率 =(首都直下地震時の帰宅分散実施ケース)÷(東北地方太平洋沖地震ケースの最大混雑度) ※ 3東北地方太平洋沖地震の場合は当日 15 時〜、首都直下地震の場合は翌朝6時〜 作成:三菱総合研究所 ②宿泊場所・休憩場所としての帰宅困難者一時滞在施設の指定・事前公表の推進 買い物客等の滞留者で待機する場所がない人たちのために、今回の東北地方太平洋沖地震 発生時にも対応が取られたような、公共施設及び民間施設による「帰宅困難者一時滞在施 設」の確保の促進が重要である。あらかじめ帰宅困難者一時滞在施設として利用可能な施設 を定め、その運用方法を明確化するとともに、市民に対して平時から周知しておくことが必 要である。また、帰宅困難者一時滞在施設に指定していない公共施設にも帰宅困難者が訪れ 対応せざるを得なかったケースも発生しており、帰宅困難者一時滞在施設に円滑に誘導する ための方策(マップや案内標識等の作成など)も検討しておく必要がある。 ③帰宅困難者対策の実施主体の役割分担の明確化 「区市町村がまず守るべきと考えている対象は主として地元住民であり、帰宅途上にある 他区市町村の住民の帰宅支援は広域自治体である都道府県で対応すべき」と考えている区市 町村があるというのが現状である。 また、帰宅困難者の発生源は、企業・学校・大規模集客施設等であり、それぞれの場所で 的確な対応ができれば、少なくとも膨大な数の徒歩帰宅者による混乱が発生する危険性は少

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なくなる。そのため、まずは自助での対応(個人での対応を含む)を最重視すべきと考えら れる。その際、不特定多数の来客・乗客等をとどめることが、業務の性質上あるいは災害時 の被害状況によっては難しい場合も考えられるが、そうした事態をあらかじめ想定して、地 域の事業者間、行政−事業者間で役割を分担・融通しておくべきである。そのためにも、各 施設での受け入れ可能性を調査し、地域で合意を図っておく必要がある。 こうした現状を考えると、帰宅困難者対策は官民の広域連携による対応が必要である。基 本的には、まずは帰宅困難者の発生源である企業・学校・大規模集客施設等が、帰宅困難者 に対して「一時待機・収容」の対策を実施する必要がある。その上で、行政、企業・学校、 市民等、それぞれが事前に取り決めた役割分担に沿った対応を実施することが必要である。 具体的には、例えば、以下のような役割分担が考えられる。各主体に任せるのではなく、社 会全体の合意として統一的なルールとし、防災計画に位置付けることが重要である。 表 3.帰宅困難者対策の主体別役割分担(案) 実施主体 実施する主な対策(役割分担) 公共交通機関 ①公共交通機関が運行できれば帰宅困難者問題は起こらないのが当然である。大規模災害時にお いても、できるだけの早期の復旧を目指す ②数日以上あるいはそれ以上に運行再開が困難な場合には、無用な混乱を招かないように、市民 等に対して「少なくとも○日間は復旧が困難」の旨のアナウンスを迅速に実施 ③外部の帰宅困難者に対する一時滞在スペースの確保、明確な表示等(例えば鉄道駅の場合。改 札内への滞留者の立ち入りを禁止するのはやむをえないが、改札外の駅構内の空間においては 滞在可能場所をあらかじめ指定し、公表しておく等) 一般企業・大学、 大規模集客施設 (百貨店、ホテル、イベント会場など) ①全従業員(派遣社員等含む)、全学生及び顧客(平均的な来客数)の一時収容  ・安全な待機スペースの確保(建物の耐震化、オフィス家具類の転倒・落下防止対策)【1】  ・食料・飲料水(最低 2 日分程度)、毛布、簡易トイレ、ヘルメット等の備蓄【2】 ②帰宅困難者に対する一時滞在スペース等の提供に関する自治体との協定締結。また、帰宅困難 者の受け入れが難しい施設については、企業間連携による地域内役割分担を帰宅困難者対策協 議会等で決定 ③「むやみに移動を開始しない」という基本原則の周知、翌日帰宅・時差帰宅の実施〔国等によ る帰宅推奨パターンなどを考慮した具体の計画化〕 ①帰宅困難者の心得、基本原則、翌日帰宅・時差帰宅などの行動パターンなどの国民への周知 ②国有施設を帰宅困難者一時滞在施設として開放〔運営体制の整備含む〕 ③帰宅断念者(要援護者等)に対する移送手段の調整・確保 都道府県 ①都道府県立学校を帰宅困難者一時滞在施設として指定・運営 ②帰宅困難者一時滞在施設を案内するためのマップ等の準備【3】 ③帰宅困難者が必要とする情報(交通情報、一時滞在施設情報等)のラジオ、携帯電話のエリアメー ル、コンビニエンスストア等の電子広告板、大型ビジョン等を通じた提供 ④帰宅困難者対策訓練の実施 ⑤帰宅断念者(要援護者等)に対する移送手段の調整・確保

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表 3.帰宅困難者対策の主体別役割分担(案)(続き) 実施主体 実施する主な対策(役割分担) 区市町村 ①(発災前の段階での)事前の帰宅困難者対策の推進を主導  ・地域住民だけではなく、区市町村外からの買い物客等のための食料・毛布等の備蓄  ・帰宅困難者一時滞在施設の提供等に関する民間事業者との協定締結(提供可能施設のリスト アップを含む)、費用負担の事前検討  ・帰宅困難者対策訓練の実施 ②公立学校等の避難所で地域の避難者の受け入れを優先〔表内・上述の【3】のマップ等の配布〕 ③帰宅困難者一時滞在施設として開放する公立学校の指定・運営(地域の被害が小さい場合) 都道府県立学校 ①帰宅困難者一時滞在施設として帰宅困難者(買い物客・旅行客等の組織に属していない人、要 援護者、徒歩帰宅者)を一時収容〔表内・上述の【1】【2】は同様〕 ②避難所に指定されている場合は地域の避難者の受け入れを優先するが、他の帰宅困難者一時滞 在施設を案内するためのマップ等(都道府県が準備)を配布 公立小中学校 ①震度 5 強以上の地震などで交通機関が広域的に停止した場合、保護者の引き取りまで児童・生 徒を留め置き〔表内・上述の【1】【2】は同様〕 ②避難所として、地域の避難者及び要援護者の受け入れを優先〔表内・上述の【3】のマップ等の配布〕 ③地域の被害規模が小さい場合、あらかじめ指定しておいた学校を帰宅困難者一時滞在施設とし て開放 私立小中学校 ①震度 5 強以上の地震などで交通機関が広域的に停止した場合、保護者の引き取りまで児童・生徒を留め置き〔表内・上述の【1】〜【3】は同様〕 帰宅支援ステーション (コンビニ、ガソリンスタンド、 ファミリーレストラン等) ①都道府県と協議し、協定締結施設の拡大を図る ②可能な限り営業を継続し、帰宅困難者に対して水道水・トイレを提供 ③帰宅困難者に役立つ情報(公共交通機関の運行情報、一時滞在施設情報等)を電子広告板等に より提供〔都道府県との連携が必要〕 市民 ①災害用伝言ダイヤル 171、携帯電話の災害用伝言板サービスや携帯メールなどの「複数の安否 確認手段の活用方法」について家族内で決めておく ②家族と落ち合う場所を決めておく ③「むやみに移動を開始しない」という基本原則の理解、翌日帰宅・時差帰宅〔国等による帰宅 推奨パターンなどを意識した行動〕の実施 ④徒歩帰宅グッズ(歩きやすい靴、リュックサック、ペットボトル飲料水、携帯ラジオ、携帯電 話の予備バッテリー、携帯食料、地図、携帯トイレ、懐中電灯等)の備蓄〔一部はとどまる際 のグッズとも兼用〕 ⑤自宅建物の耐震化、家具類の転倒・落下防止対策の推進(=安心して外出先でとどまるための 対策) 作成:三菱総合研究所

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4.今後の検討課題

内閣府(防災担当)及び東京都は、首都直下地震の帰宅困難者等対策について、東北地方 太平洋沖地震の教訓を踏まえて、自助・共助・公助の総合的な対応を図るため、国、地方公 共団体、企業等がそれぞれの取り組みに係る情報を共有するとともに、相互に連携・協働し て取組むべき横断的な課題について検討することを目的とした「首都直下地震帰宅困難者等 対策協議会」を 2011 年 9 月 20 日に設置した。 今後、関係団体をはじめとする社会全体が合意のもとに同じ方向性を持って、実践的な帰 宅困難者対策を展開していく必要があるが、まだまだ解決すべき課題は多い。例えば、「む やみに移動を開始しない」という基本原則をどの地域がいつまで遵守するのか、基本原則の 実際の適用について誰が最終的に意思決定するのか等をはじめとして、具体的に詰めるべき 点が多い。この協議会において社会全体としての対策の枠組みについて合意するとともに、 具体の対策については、自治体や個別の実施主体が地域や業態等に応じて実践していくこと が必要となる。 三菱総合研究所では、本協議会における検討テーマの関連業務を内閣府・東京都から受託 しており、これまでの知見等を生かして、具体的かつ実践的な帰宅困難者対策を検討してい く所存である。

謝辞

東日本大震災発災時における首都圏での帰宅困難者の状況に関するアンケート調査のデー タ利用についてご快諾をいただきました、災害と情報研究会(東洋大学・東京大学)及び株 式会社サーベイリサーチセンターに厚く御礼を申し上げます。

参考文献

[1] 災害と情報研究会(東洋大学・東京大学),株式会社サーベイリサーチセンター:「東日本大震 災に関する調査(帰宅困難)」(2011). [2] 社団法人全国警備業協会:『雑踏警備業務の手引き』(2006). [3] 中央防災会議・首都直下地震避難対策等専門調査会:『首都直下地震避難対策等専門調査会報 告参考資料:帰宅行動シミュレーション結果について』(2008).

参照

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